MIX

ミキシングに必要な機材と環境

PC、DAW、オーディオ・インターフェース、スピーカー、ヘッドフォン

「歌ってみた」のミキシング作業は、「in the box」、PCの中だけで完結する事がほとんどです。アナログ機材でしか得られない質感を求め、PC内部で編集した音声を敢えてアナログ機材に出力し改めてPCで取り込む、といった手法もありますが、何はともあれPCが必要です。

PCには「DAW」と呼ばれるソフトをインストールし、そのDAWを使ってミキシング操作を行います。その音声は「オーディオ・インターフェース」を通してスピーカーやヘッドフォンでモニタリングします。

それぞれの機材は多種多様で、操作性や拡張性、もちろん音質が異なります。一番の要点は、クライアント、そしてリスナーという音の出口ともいうべき相手を想定してミキシングできるか、に尽きます。

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UTAHAUS - ノイズ除去とクリーンアップ

ノイズ除去とクリーンアップ

ボーカル録音データのほとんどが、自宅やレンタルスタジオで収録されたものです。このデータには、エアコン、換気扇、冷蔵庫、外を走る自動車、来訪者のインターフォン、手元に置いたスマートフォンの通知、録音ボタンを押したマウスのクリック音などの環境音と呼ばれるノイズや、歌い手の不要な息継ぎ、喉を鳴らした音、リップノイズなどのボーカルノイズが入っています。

ノイズ除去の工程で、これらのノイズに対処します。一番基本的な操作は、ノイズの波形を削除する事です。必要な音声が含まれていない箇所の削除は簡単ですが、必要な音声と同時に発生しているノイズに関してはノイズ除去ソフトを使ったり、イコライザーで処理するなどの対処が必要です。

ボーカル単体では気にならない音量のノイズでも、他の作業によって音量が上がってきて目立つ事になります。しかし場合によってはトラックと重ねる事で気にならない事もあります。ボーカル単体でモニターした際に徹底的に除去する事に時間を費やすよりも、ある程度の除去を行った上でトラックと重ねてモニターした際に気になる部分を都度で対応する方が効率が良いです。

タイミング補正

音楽は、リズム、音程、音質の三つの要素で成り立っています。ボーカルのリズムを補正することで、楽曲全体の躍動感や叙情感を増すことができます。

音程とリズムどちらにも言える事ですが、完璧な音程とグリッドに合わせたリズムが心地いいとは限りません。むしろ、そこから外れる事で魅力や差別化を図ってこそ「音楽的」と言えます。バラードでタメたり、アップテンポでハシったりしているタイミングをそのままにするかどうか、正解はありません。そのセンスこそMIX師の個性となります。

楽曲の一部分だけを聴いてタイミング補正していると前後の「グルーヴ」と合わなくなりますので、補正した際は必ず前後と合わせて確認してください。そして、最終的には歌い手の個性や主張が最優先ですので、場合によっては補正したタイミングを戻す可能性もある事も視野に入れて作業してください。

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UTAHAUS - ピッチ補正

ピッチ補正

ピッチ補正の作業には、基本的に専用のピッチ補正ソフトを使用します。タイミング補正の項目でも説明しましたが、完璧なピッチが正しい作業ではない事を念頭に置いて作業してください。

ボーカルのテクニックである「しゃくり」や「フォール」を活かしつつ補正を行うには、作業に対する経験値が必要です。また、ピッチ補正ソフト上では目標の音程で表示されていても、トラックに含まれる楽器のピッチがずれている事でメロディの音程が外れて聴こえる場合もあります。最終的にはMIX師の耳で判断する事が大事です。

音程の話になると、どうしても「音楽理論」や「音感」の必要性を感じてしまい、独学で作業する方たちは引け目を感じるようです。必要と感じれば学ぶ事も大事ですが、最終的には心地よさやセンスが最も重要です。理論や画面上の表示にとらわれすぎないようにしましょう。

イコライジング

イコライジングはEQとも略され、周波数の補正を行う作業です。周波数の補正というと難しい理系の分野と思われがちですが、結局は音程別に音量を増減しているに過ぎません。例えば、チューニングの基本であるの「ラ」(A3)は440Hz、そこから3オクターブ上の「ラ」は約3.5kHzです。メロディとトラックを重ねてモニタリングし、聴こえづらい音程があれば、その音程となる周波数を上げ、逆にうるさい音程があれば下げる事で補正できます。

しかし、人間の声には、ピッチ補正で表示された音程以外にも倍音という別の音程が含まれています。そのため、歌い手や録音環境、トラックの特性やAメロ、サビなどのパートによって目立ちすぎ、または聴こえづらい周波数を特定して補正する事で、全体をイコライジング(平均化)する事ができます。

どの周波数が目立ちすぎているのかが分からない場合には、Qを狭くしたパラメトリックEQの周波数を下から上に動かし、敢えて極端に目立たせてみてください。見つかった周波数を今度は下げる事で補正できます。

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UTAHAUS - コンプレッサー処理

コンプレッサー処理

コンプレッサーは音量の大小(ダイナミクス)を補正する機能です。いわゆる「イコライザー」が音程による音量を補正する機能ですので、イコライジングとコンプレッサーは、その役割に重なる部分が多く、相互関係と言えます。


コンプレッサーは基本的な機能は、設定した音量よりも大きな音が入力された場合、設定した音量を越えた分に関して音量的に抑える事です。この機能により、大きすぎる音量をある程度抑え、全体的な音量の増減を平均化する事で聴きやすくしてくれます。

コンプレッサーには設定項目が多く、その設定を少し変更しただけでは変化が分かりづらく難解な機能と思われがちですが、入力された音に対して一音一音フェーダーを操作して音量の増減をするという手間を省いてくれる便利な機能が根本です。

空間処理

空間処理の代表的ものは「リバーブ」です。空間の反響をシミュレートして疑似的に「大ホール」や「コンクリートの地下ガレージ」で歌ったような余韻を追加します。空間処理には「プレートリバーブ」「ディレイ」「テープエコー」など様々な種類がありますが、基本的には原音に対して余韻を追加しているだけです。

空間処理を行う事により、はっきりしていた原音にボカシが足され、それにより存在感が薄くなり「トラックになじむ」といった効果を生みます。

現代の音楽では、この空間処理を積極的に用いる事で「なじみつつも目立たせる」といった、楽曲アレンジに通じる処理が行われています。

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UTAHAUS - ボリューム、パンニング調整

ボリューム、パンニング調整

ボリュームは、耳に届く優先順位の調整、パンニングはステレオ音響における耳に届く優先順位の調整です。非常に良く収録されたボーカルとトラックの場合、ボリュームとパンニングの調整のみでミキシング作業の大半が完了する場合もあります。

ミキシングは、箱の中に整理して音を詰める作業と言えます。その箱の高さと音程が関連し、パンだと捉えると分かりやすいでしょう。音程の低い部分にばかり音を詰め込む事はできませんし、全ての音を右側に詰め込む事もできません。全ての音が聴こえようにするには、しっかりと整理する事が大事です。

マスタリング

マスタリングは、ミキシングによって整理された音を最終的に調整する作業です。元々は、アルバムなどの複数の楽曲の音量や音質を揃える作業でしたが、近年では積極的に音質を調整する場合もあります。逆に、ミキシングで調整済みとして、改めてマスタリング作業を行わない場合もあります。

ミキシング作業でしっかりと調整した2Mixを俯瞰的に聴く事で判断できる、最後の調整の機会を「マスタリング」と捉えて作業すると良いでしょう。

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